稽古相手がいなくなる


「他人の芸を見て、あいつは下手だなと思ったら、そいつは自分と同じくらい。

同じくらいだなと思ったら、かなり上。

うまいなあと感じたら、とてつもなく先へ行っているもんだ。

                           ―――古今亭志ん生」

 伊坪さんの技を稽古メモに残してから、3世としばし思い出話に花を咲かせました。

 武道家名と称号を贈られた後、多くの先生が独立をされる中、伊坪さんは最後まで旧本部道場を守り、後進を指導して下さいました。

 つい6-7年前まで伊坪さんの技と3世の技は根幹が一緒で効き方が似ており、とくに地の巻、人の巻になるにつれ、相似の程度が高まってきたなーと思っていました。

 しかし師範免許を許して頂いてから、3世のワザを受けさせて頂く際にいくつかのカタに変化があらわれ、妙な違和感が残るワザが新たに出現しました。ちょうど最晩年の大先生に猿投げを掛けて頂いたときに感じた違和感と、酷似したものです。

 伊坪さんはなぜ、この技を当時の僕に教えてくれなかったのだろう、と3世に聞くと「それは子供への優しさだから。これも大先生の教えで、稽古相手を大事にする、なぜならそうしないと稽古する相手がいなくなるから」とのコメントをもらいました。

 程度を見て丹念に育成する「うまい」師範のあり方について今更ながら、気づかされます。

 まだまだ先は、とてつもなく長いようです。

謙久

令和五年八月

松道流 護身武道 松栄館

当流HPをご覧いただき、ありがとうございます。 当流は昭和18年、旧水戸藩士・武石謙太郎兼相居士の弟子・松本貢兼久が無比流、浅山一伝流、兼相流等諸術を総じて創設しました。身体操法の振り返りにより、日本古来のエッセンスを身につけ、実生活での向上を目指しています。