伊坪さんのノウハウ


 伊坪さんは大先生の初期のお弟子さんであり、僕の啓蒙の師の一人でもあります。武道家名は「光久」と言い、いつもニコニコして控えめに話される方ですが、ワザは強烈でした。

 僕が道場見学をした折に技を掛けて下さり、そのまま僕に当流への入門を決心させた方でもあります。

 僕が入門した1999年頃は、2世と伊坪さんと宮崎先生が道場におり、大先生はたまにですが、道場に下りてこられました。振り返ってみると指導者に恵まれた時期でした。

 その頃は、学校が終わるとすぐ道場にいきました。

 まずは1時間ほど受身や一人で杖をやり、5時半頃から2世に居合、立合、組太刀、小太刀の稽古をつけてもらいます。6時半頃に伊坪さんが来られ、少し杖でならされてから一番の楽しみの柔術の稽古をつけてもらいます。

 当時は2世から新たに1-2手を習っては、すぐ伊坪さんが稽古相手を務めるという、2人の師範が習い手1人につくような、大変贅沢な稽古の仕方を経験しました。おそらく僕のあと、このやり方を経験できたのは、大橋さんだけだと思います。

 ガキでしたから習ったワザにすぐうずうずしてしまいます。力いっぱいに伊坪さんにかけると、伊坪さんにも思いっきり掛けられます。当時50代とは思えないほど、気力がみなぎった技でした。

 柔術の稽古も地の巻上段になったころでしょうか。稽古後に伊坪さんと雑談していると、大先生の思い出を語ってくださいました。

 「あるときね、急にね先生がみんなを集めていうんだよね。今道場で力技を掛ける人がいる、それは邪道だ!ってね。それね、今思うとあ!俺のことなんだ」と、僕を見ながらニコニコしておっしゃいました。

 その頃、のちに3世になられる野川先生に日曜の特訓をお願いしていました。伊坪さんに掛けたような技を3世に掛けるとやはり驚かれ「そんなんだと稽古相手がいなくなってしまう!こうだよ」とよく注意され、矯正されたものです。

 

 今こうして思い出を書いている途中でも、伊坪さんの猿投や打込、逆背負、天狗返、無刀取が走馬灯のように目の前をよぎり、肘、肩、首の付根が疼きます。

 僕も教える立場になり、あの頃教わったノウハウがしみじみと甦ってくる年になりましたよ、伊坪さん。

 謙久

 台風7号が上陸する前夜にて

松道流 護身武道 松栄館

当流HPをご覧いただき、ありがとうございます。 当流は昭和18年、旧水戸藩士・武石謙太郎兼相居士の弟子・松本貢兼久が無比流、浅山一伝流、兼相流等諸術を総じて創設しました。身体操法の振り返りにより、日本古来のエッセンスを身につけ、実生活での向上を目指しています。